27日22時41分=2020年=
村上春樹の短編小説集「一人称単数」②
村上春樹の6年ぶり短篇小説集「一人称単数」の後半を読み終えた。8編はどれも面白く、読み終えるのがもったいなかった。

ほとんどの話に音楽がからんでくる。クラシックやジャズであるが、出てくる度にYouTubeで検索し、その曲をかけながら読むのが楽しい。村上春樹ならではの楽しみ方である。
8編の中で異質なのが「ヤクルト・スワローズ詩集」。村上春樹のヤクルトファンの歴史を記している。
弱小球団ヤクルトがなぜ好きなのか、負けている試合の楽しみ方など、とてもおもしろい。ちょうど、今夜は巨人対ヤクルトの3連戦の3戦目。ヤクルトは巨人に3連敗を喫した。ヤクルトは全然いい所がなかったし、覇気もなかった。
小説の中で紹介されている自費出版本「ヤクルト・スワローズ詩集」を読みたいと思って、Amazonや古本屋のサイトを探したが、どこにもない。この本は存在せず、架空の本だったのだ。あやうく春樹マジックにひっかかるところだった。
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』に出てくる作家デレク・ハートフィールドは架空の人物だという。
◇「ヤクルト・スワローズ詩集」
村上春樹の野球歴の自伝。野球が好きで、生の試合が好きで、神宮球場が好きで、ヤクルトが好き。弱小球団で、球場が常に閑散としている。「ビールを飲みながら野球を観戦し、ときどきあてもなく空を見上げていれば、それでまずまず幸福だった。たまにチームが勝っているときにはゲームを楽しみ、負けているときには『まあ人生、負けることに慣れておくのも大事だから』と考えるようにしていた」。「人生の本当の知恵は『どのように相手に勝つか』よりはむしろ、『どのようにうまく負けるか』というところから育っていく」。1982年、観戦しながら書いた「ヤクルト・スワローズ詩集」を自費出版した。500部作って200部が売れ、あとは配った。それがコレクターズアイテムになって高値が付いているという。村上氏の手元に2部しか残っていないが、その詩の一部が掲載されている。
↓今日の試合も巨人が完勝。ヤクルトはいい所がなかった

◇謝肉祭
簡単に言えば“ブス遍歴”。その中で最も醜い女性がコンサート会場で出会った「F*」だった。醜さについて語ることは、美しさについて語ることでもある。美しい女性たちの多くは、自分の美しくない部分を不満に思い、あるいは苛立ち、その不満や苛立ちに恒常的に心をさいなまれているようだった。「F*」の力強い個性‐あるいは「吸引力」とでも称すべきもの‐はまさにその普通ではない容貌があってこそ有効に発揮されるものだった。
2人はピアノの独奏曲が好きなことで趣味が一致した。そして究極のピアノ音楽として選んだのが、シューマンの「謝肉祭」だった。2人は「謝肉祭」について語り合い、レコードを聞き、コンサートに行った。
彼女は自らについて何一つ語らなかった。半年後、彼女と突然連絡がとれなくなった。数か月後、彼女が詐欺容疑で逮捕されたニュースを見た。ハンサムな夫との共犯だった。その後、「謝肉祭」が演奏されるたび客席を探すが、彼女の姿はなかった。
↓シューマン ≪謝肉祭≫ 作品9 ルービンシュタイン
◇「品川猿の告白」
群馬県の小さな温泉旅館で年老いた猿に出会った。温泉に入っていると言葉が話せる猿が入ってきて、背中を流してくれた。旅館で働いているという。以前、大学の先生と暮らしていたため、無類の音楽好きで、ブルックナーの七番が好きだという。
猿に仕事が終わってからビールを飲みながら身の上話を聴かせてもらった。品川で長く人間と暮らしていたので、猿ともコミュニケーションが取れないという。猿は人間の女性にしか恋情を抱けない体質になっており、これまで7人の女性から名前を盗んだ。盗まれた女性は、名前が思い出せないことがあるという。翌日、宿を出る時、ビール代を払おうとしたら、自販機の缶ビールしかないと、ビール代を受け取らない。
それから5年。旅行雑誌の美人女性編集者と仕事の打ち合わせをしていて、彼女が自分の名前を思い出せないという。女性は最近、品川区で運転免許証をなくしたことがあるという。品川猿の仕業なのか。
↓ブルックナー: 交響曲 第7番 ホ長調 ヴァント, ベルリン・フィル
◇「一人称単数」
普段スーツを着る機会がないので、試しに着てみることがある。すると、外出してみようという気持ちになる。ある日スーツを着てビルの地下にあるバーに入った。ウオッカ・ギムレットを飲みながらミステリー小説を読んでいると、人生の分岐点で別の選択をしていたら、一人称単数である私はいなかったはずだと思う。「でもこの鏡に映っているのはいったい誰なんだろう」と思う。
近くにいた客の女性が話しかけてきた。「そんなことをしていて、なにか愉しい?」と。そして、3年前に水辺で、友達に不愉快なことをしたと言う。「恥を知りなさい」とその女は言った。
今日の
最低気温24.0度、最高気温35.7度。晴れ。
○……「きき酒マラソン」が11月8日、オンラインで開催するとの通知ハガキが届いた。自分で走るコースを設定し、4時間ほど走るらしい。参加費は5000円。きき酒はどうするのだろう。

ほとんどの話に音楽がからんでくる。クラシックやジャズであるが、出てくる度にYouTubeで検索し、その曲をかけながら読むのが楽しい。村上春樹ならではの楽しみ方である。
8編の中で異質なのが「ヤクルト・スワローズ詩集」。村上春樹のヤクルトファンの歴史を記している。
弱小球団ヤクルトがなぜ好きなのか、負けている試合の楽しみ方など、とてもおもしろい。ちょうど、今夜は巨人対ヤクルトの3連戦の3戦目。ヤクルトは巨人に3連敗を喫した。ヤクルトは全然いい所がなかったし、覇気もなかった。
小説の中で紹介されている自費出版本「ヤクルト・スワローズ詩集」を読みたいと思って、Amazonや古本屋のサイトを探したが、どこにもない。この本は存在せず、架空の本だったのだ。あやうく春樹マジックにひっかかるところだった。
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』に出てくる作家デレク・ハートフィールドは架空の人物だという。
◇「ヤクルト・スワローズ詩集」
村上春樹の野球歴の自伝。野球が好きで、生の試合が好きで、神宮球場が好きで、ヤクルトが好き。弱小球団で、球場が常に閑散としている。「ビールを飲みながら野球を観戦し、ときどきあてもなく空を見上げていれば、それでまずまず幸福だった。たまにチームが勝っているときにはゲームを楽しみ、負けているときには『まあ人生、負けることに慣れておくのも大事だから』と考えるようにしていた」。「人生の本当の知恵は『どのように相手に勝つか』よりはむしろ、『どのようにうまく負けるか』というところから育っていく」。1982年、観戦しながら書いた「ヤクルト・スワローズ詩集」を自費出版した。500部作って200部が売れ、あとは配った。それがコレクターズアイテムになって高値が付いているという。村上氏の手元に2部しか残っていないが、その詩の一部が掲載されている。
↓今日の試合も巨人が完勝。ヤクルトはいい所がなかった

◇謝肉祭
簡単に言えば“ブス遍歴”。その中で最も醜い女性がコンサート会場で出会った「F*」だった。醜さについて語ることは、美しさについて語ることでもある。美しい女性たちの多くは、自分の美しくない部分を不満に思い、あるいは苛立ち、その不満や苛立ちに恒常的に心をさいなまれているようだった。「F*」の力強い個性‐あるいは「吸引力」とでも称すべきもの‐はまさにその普通ではない容貌があってこそ有効に発揮されるものだった。
2人はピアノの独奏曲が好きなことで趣味が一致した。そして究極のピアノ音楽として選んだのが、シューマンの「謝肉祭」だった。2人は「謝肉祭」について語り合い、レコードを聞き、コンサートに行った。
彼女は自らについて何一つ語らなかった。半年後、彼女と突然連絡がとれなくなった。数か月後、彼女が詐欺容疑で逮捕されたニュースを見た。ハンサムな夫との共犯だった。その後、「謝肉祭」が演奏されるたび客席を探すが、彼女の姿はなかった。
↓シューマン ≪謝肉祭≫ 作品9 ルービンシュタイン
◇「品川猿の告白」
群馬県の小さな温泉旅館で年老いた猿に出会った。温泉に入っていると言葉が話せる猿が入ってきて、背中を流してくれた。旅館で働いているという。以前、大学の先生と暮らしていたため、無類の音楽好きで、ブルックナーの七番が好きだという。
猿に仕事が終わってからビールを飲みながら身の上話を聴かせてもらった。品川で長く人間と暮らしていたので、猿ともコミュニケーションが取れないという。猿は人間の女性にしか恋情を抱けない体質になっており、これまで7人の女性から名前を盗んだ。盗まれた女性は、名前が思い出せないことがあるという。翌日、宿を出る時、ビール代を払おうとしたら、自販機の缶ビールしかないと、ビール代を受け取らない。
それから5年。旅行雑誌の美人女性編集者と仕事の打ち合わせをしていて、彼女が自分の名前を思い出せないという。女性は最近、品川区で運転免許証をなくしたことがあるという。品川猿の仕業なのか。
↓ブルックナー: 交響曲 第7番 ホ長調 ヴァント, ベルリン・フィル
◇「一人称単数」
普段スーツを着る機会がないので、試しに着てみることがある。すると、外出してみようという気持ちになる。ある日スーツを着てビルの地下にあるバーに入った。ウオッカ・ギムレットを飲みながらミステリー小説を読んでいると、人生の分岐点で別の選択をしていたら、一人称単数である私はいなかったはずだと思う。「でもこの鏡に映っているのはいったい誰なんだろう」と思う。
近くにいた客の女性が話しかけてきた。「そんなことをしていて、なにか愉しい?」と。そして、3年前に水辺で、友達に不愉快なことをしたと言う。「恥を知りなさい」とその女は言った。
今日の足跡
最低気温24.0度、最高気温35.7度。晴れ。
○……「きき酒マラソン」が11月8日、オンラインで開催するとの通知ハガキが届いた。自分で走るコースを設定し、4時間ほど走るらしい。参加費は5000円。きき酒はどうするのだろう。
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