28日20時54分=2020年=
大量誤植発生の「盤上の向日葵」 読んだら夢中

柚月裕子の長編ミステリー『盤上の向日葵』の文庫判下巻に大量の誤植が出て話題になっている。先手と後手を表す記号の大半が逆になってしまった。中央公論社のホームページの訂正表を見ると100か所以上あった。編集作業の工程で、特殊記号を変換する際に誤ったという。
↓将棋の駒の白黒が反対になった誤植。下巻の大半で逆に

日本のミステリー史上、特筆されると思ったので、さっそく書店に行って買おうとした。だが、既に回収されていた。そこで、オークションサイトで入札し、手に入れた。でも、考えてみると、本屋大賞2位で人気の作品で、発行部数も多いので、そんなに価値が出るとは考えられない。まあ、いいか。
せっかく買ったのでペラペラとページをめくってみた。何気なく読み始めると、2人の刑事が冬の山形県天童市の駅に降り立つ場面から始まる。大宮市の甘木山の山中で男性の白骨死体が発見され、一緒に将棋の駒も埋められていた。駒は江戸時代の名匠・初代菊水月の作で400万円以上もする名駒だ。刑事の石破剛志は奨励会の経験をもつ佐野直也と組み捜査を始める……。
ちょうど将棋ブームということもあり、奨励会など将棋の知識も満載。トラベルミステリー風の味付けがしてあって、文章も読みやすい。読み進めるうちに引き込まれていった。将棋の真剣勝負の場面が多いが、将棋が分からない人も迫力は感じられる。
背景にはプロ棋士のタイトル戦「竜昇戦」が描かれている。羽生善治九段を思わせる七冠目のタイトルを狙う天才棋士、壬生芳樹に対するは、奨励会やアマチュアを経ず、ベンチャー企業の社長を辞して将棋界に殴り込みをかけた天才騎士、上条佳介の戦いである。
この中で、上条佳介の不幸な生い立ちが語られる。母が亡くなり、父は賭け事と酒に溺れ、佳介はろくに食べ物も与えられず、日常的に暴力を振るわれていた。それを救ってくれたのは諏訪の元教師唐沢光一朗だった。妻の美子とともに、我が家に招き、我が子のように世話をした。佳介が将棋に興味を持っていたので、毎週日曜、対局した。この辺は、松本清張の「砂の器」のようだ。物語に膨らみが出てきて俄然面白くなった。登場人物も魅力的だ。
東大に現役で合格した佳介が、東大将棋部の強豪に勝つ場面とか、町の将棋道場で天才ぶりを発揮してベテランを打ち負かす場面なども痛快だが、賭け将棋の真剣師・東明重慶との運命的な出会いが佳介の運命を変える。頭の体操のような将棋ではなく、命を削るような真剣な将棋に魅入られる。桂介はお金を賭けて勝負する「旅打ち」に同行した。
桂介は大学を卒業後、ベンチャービジネスで成功を収め冨を築く。頭脳明晰でもビジネスは別物。この辺の描写は少し出来すぎている。成功した桂介に、父・庸一は金をたかりに来た。東明とも再会を果たし対戦する。病気を患っていた東明は、上条に所沢の山へ連れて行ってもらい、そこで命をかけた真剣勝負を申し込む。
一方、遺体とともに埋められた名駒の所有者を探す石破と佐野は、大阪の不動産屋が諏訪の元教師に初代菊水月作の駒を売った情報を得る。
これ以上はネタバレになる。続きは読んでのお楽しみ。
昨年、NHKで全4回のドラマでやったそうだ。アーカイブで見てみようかな。
今日の足跡
最低気温7.2度、最高気温19.8度。曇り。
○……秋らしいすっきりした晴天が2日と続かない。こんな年は雪が多いような気がする。妙高山の初雪も早かったし、今年は冬囲いを急いだ方がいいかも。
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